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映画レビュー 『君たちはどう生きるか』

注意

この映画レビューは、物語の根幹を含む、多くのネタバレを含みます。 この作品はネタバレに敏感なので、以下は基本的には作品を見終えた方のみを対象にしています。レビューを見たくない方はブラウザバックをしてください。

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『君たちはどう生きるか』 とは?

『君たちはどう生きるか』(きみたち-は-どう-いきるか)は、2023 年 7 月 14 日に公開されたスタジオジブリ制作の日本のアニメーション映画作品。監督は宮崎駿。吉野源三郎の小説『君たちはどう生きるか』からタイトルを取っているが直接の原作とはならず、同小説が主人公にとって大きな意味を持つという形で関わり、物語そのものは冒険活劇ファンタジーとなる。- Wikipedia

感想

自伝要素を含むメッセージ性の強い難解な作風ながら、ジブリ作品としての面白さを同居させた不思議な作品

この作品の題名は小説から取ったものではあるものの、題名通り作品は非常にメッセージ性の強いものになっており、終始登場人物の行動の理由が分からなかったり、物語の展開が唐突に感じられたりと、非常に難解なものになっています。作品を見終えた感想として多くの方が「難しい」と言っているのも納得です。

物語の軸として、人の出会いと、世界の歪さ、それに伴う眞人 (主人公) の選択があります。眞人は人を通して様々なものを見ていく中で、世界の歪さを見聞きして、その上で自分を顧みてどうしたいかを明確に答えを出します。しかし、個人的な感想としては、その眞人の選択は特に制作側としてはあまり意味のないものとして扱っているような気がします。理由としては、選択後のシーンがかなり全体の尺を考えると短いからで、この物語の肝は明らかにその過程にあると分かります。

ここで、この物語を読み解く上で大事な要素として、眞人は監督である宮崎駿の写し鏡であるということです。既存のレビュー でも書かれていると通り、幼少期の背景は意識的に似せているとみて間違い無いレベルで似ています。眞人はかなり無口で無表情な分類でありながら、作品はほぼ眞人目線で展開されます。監督の晩年の作品であり、メッセージ性も強いところから深読みすると 「僕はこう生きたが、君たちが僕だったらどう生きるか?」 という、隠されたメッセージが見えてくるような気がします。

この作品は、下の世界に潜ると象徴的な表現のオンパレードになります。 広がる海の世界に、開けると死ぬ書かれた黄金の扉、森の墓石の主、幻の船団、殺生の出来ない人の形をしたもの、生命を司る白くて丸いやつ。序盤に現れるものだけでも、挙げていくと切りがないレベルです。これがどういう意図を伝えたいのか、を考えきる前に次のシーンに次々に行ってしまうので、難しい印象をどうしても植え付けられてしまいます。その後、この下の世界インコによって牛耳られていることが分かるのですが、これもある意味で人間が地球を支配しているののオマージュになっているようにも見えます。

また、この物語では、日本神話や、児童文学を想起させる要素も含まれており、一部の描写にはその背景があると見方が変わるというものがあります。例として、夏子 (眞人の父親の再婚相手) が下の世界で子供を産むために、石の中の産屋にいるのですが、それが何故石の中なのか? それと、何故夏子の姉で、主人公の母親の久子は炎の権能を持っているのか? この部分については、日本神話に似たような話があったりなど、意識的には少し匂わせてきているような部分があります。

また、感想として様々な作品の組み合わせだという意見を見ますが、個人的にそれはこの作品がジブリでありがちなストーリーラインに沿って作られているからだと思います。とはいえ、これはジブリに限ったことではなく、所謂王道なストーリーラインであり、奇しくも 新海誠の作品に似た世界観 になっているのはある意味でポイントになると思います。『すずめの戸締まり』とは複数の時間軸を結ぶ世界という世界観を共有しており、『天気の子』では最後に主人公に決定的な選択を迫って、自分の手の届く範囲を取るという展開も、共通点としてあります。このように、作りが全体的に王道で作られているためか、とても展開はわかりやすく、面白くもあります。ここがこの作品の一番の妙であると自分は感じています。

得点: 8/10

万人に勧めにくい難解な物語であり、背景を読み解くには既存のジブリ映画や、その他色々なコンテキストを必要とするため、この得点になりました。とはいえ、この映画はジブリ映画としてのフォーマットに沿ったものになっており、異端な作品ではありません。子供には勧められる作品ではないかなとは思いますが、エンタメとして考えると十分に面白いため、是非考察も含めて見終わったあとに話し合ったりするのが、この作品の楽しみ方なのかなと思います。

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